私は悪魔

  私の奇怪な性格故によく精神障害であろう人と関わる機会がある。

  例えば、「私何故不幸なのだ?」と不平不満を述べる若い女。袖をまくった片腕にら見るに耐えられぬリストカットの痕があった。

  仔細に話を聞けば、大声では言えないが、結局、自分のせいやんけと言いたくなるようなことで頭を抱えている人であった。

  簡単に股を開き男の言いなりになることでしか、人間関係を築けないことについて、私が意見する気などないが、実にこの女と面と向かい話を聞くだけでも時間と労力の無駄で、彼女の背負う不幸の陰に頭が痛くなりそうだった。今の男に捨てられても、結局また性欲を解消したい別の男の言いなりとなるのだろう。

  さて、私の叔母が入院以後幾分冷静さを取り戻し、自分の母親が寝具の間に挟まり死んでしまったことを放置したことについて何らかの呵責の念に駆られているのかと思い、今日、見舞に行ってきたが、そんな様子は無く、自分のことしか考えていなかった。

「昨日はお母さんの誕生日だのに、私は退院できへんのはおかしい」

 「きっとあんたが私を家から追い出したいだけで、この入院は長引いているに違いない」などと散々身勝手なことを言い募っていた。

  流石に私もこれには反論せざるを得ず、

「あんな死に方をばあさんにさせておいて、お母さんの誕生日とはなんかいな?全くおばさん、あんたあほやろ?」と、つい思っていたことが口に出てしまった。まあ介護が辛いと言い募る割りに何もしていなかった叔母にはこれまでも幾度となく腹が立っていたが、口には出さなかったが、今日不意にそれが出た。

  しかし、ようやく父が叔母の行き先をある有料老人ホームに決めて、それに叔母が納得しかけていた今、私は無造作にこの身勝手な叔母に初めて反論してしまった。

  すると、叔母の様子が一挙に不穏なものになった。

  声は荒げるわ、手当たり次第物は投げ飛ばすわで、異変に気付いた看護婦が病室に慌てふためいてやって来て、「落ち着いてくださいね」と、そっと叔母の肩に手を添えた途端、

「この子は悪魔だ、地獄に堕ちろ!」

  私を指差し罵るのであった。

  私は悪魔らしい…。

  たしかに私のこの反論で叔母の精神疾患が悪くなれば、有料老人ホームに行くよりも遥かに安上がりの精神科病棟での生活が更に長引いて、私と父が相続する財産も多少守られるのだ。

  そう、人の不幸を私は自分の幸運のために望んでいるとは、悪魔以外に言い表しようがない。

  介護は人を悪魔にする。